ニュースレター最終号発行いたしました。

3月1日付にて、『分子ロボティクスニュースレターNo.21新学術領域「分子ロボティクス」計画研究成果の特集』(最終号)を発行いたしました。
巻頭言は、東京大学萩谷昌己教授です。

「終わり=始まり」
新学術領域「分子ロボティクス」代表
東京大学大学院情報理工学系研究科
萩谷 昌己

早いもので5年の月日が流れ過ぎようとしています。5年の歳月を経て、多くの方々のご尽力とご支援により、分子ロボティクスと呼ぶ学術領域もその姿が明らかとなり、関連分野との交流もますます活発になって来ています。新学術領域研究(研究領域提案型)の目的は、新たな研究領域を発展させることですので、本領域は、真の意味で新しい研究分野を創成し発展させた点において、既に大きな成功を収めたと言っても過言ではありません。特に、本領域なくしては決してあり得なかったような、遠く離れた分野間の共同研究が多数立ち上がり、また、従来の常識では全く異なるディシプリンを併せ持つ研究人材が育成されて来ています。本領域はそのための研究交流の場を日常化するとともに、共用設備の提供も行って来ました。

もちろん、研究成果の面でも、明確な結果が出て来ています。特にアメーバ班では、領域内で開発された要素技術が、DNA ナノ技術によって垂直統合され、アメーバロボットのプロトタイプ(AAA—Artificial Autonomous Amoeba prototype)が稼働するに至っています。このプロトタイプにおいて開発されたDNAクラッチは、人工DNA 分子によってリポソーム脂質膜へのキネシン複合体の着脱を制御する技術であり、DNA ナノ技術による垂直統合の典型例となっています。一方、分子運動アクチュエータの高度化へ向かう多彩な研究も行われ、その一部は人工筋肉の研究プロジェクトとして本学術領域後の研究展開の一つの流れを形作っています。

スライム班は、高分子ゲルを、分子デバイス群を動作させるプログラマブル時空間反応場とするための基盤要素技術を開発して来ました。
そのマイルストーンとして、新規DNA ゲルの創製により、一次元ゾル空間の中のゲル化部分の運動をDNA 計算で制御するという短期目標を達成しました。
さらに時空間反応場を高度化するために、高分子ゲルによる空間の離散化を研究パラダイムとして打ち出し、ゲルオートマトンと呼ぶ理論モデルの研究を展開するとともに、新規高分子ゲル、マイクロ流路、ゲルカプセルなどの要素技術の開発を行い、特にゲルオートマトンのマクロプロトタイプにおいて動的パターン形成に成功しています。

感覚班は新たな分子センサーデバイスの開発を担って来ましたが、その研究成果は枚挙にいとまがありません。特にRNA デバイスはセンサーとして活用できるだけではなく、細胞内分子ロボットとしてiPS 細胞を分化制御することに成功しており、分子ロボティクスの確固たる応用分野を示唆しています。

知能班では、組合せ回路、リアクティブ系、メモリ・クロックを有する状態機械、学習する自己適応系という一般的な知能の発展段階に沿って、分子コンピュータの高度化を進めました。特に学習する自己適応系に関してはスライム班と連携して、環境と情報媒体とロボット本体が一体化するという分子ロボットの特徴付けを行い、群分子ロボットによる群知能の研究を進めました。

冒頭でも述べましたが、以上の研究成果を総じますと、多くの新規技術の開発に加え、要所要所において新たな研究パラダイムの提案とそれらに従った研究を進展させて来ています。本領域の研究期間はもうすぐ終了いたしますが、それがまさに分子ロボティクス研究の本格的な始まりです。既に多くの胎動が起こっています。期待をもって見守ってください。いえ、是非、この動きに積極的に参画していただくことをお願いいたします。

 

 

 

分子ロボティクスニュースレターご愛読ありがとうございました。
編集: 町田規子

 

ニュースレター20号発行いたしました

ニュースレター20号が2016年12月26日発行されました。BIOMOD2016特集号です。
巻頭言は、関西大学葛谷明紀准教授です。
kuzuya_picture

「BIOMOD2016大会報告」
いまだ記憶の新しい東日本大震災がおきた2011年は、また国際生体分子デザインコンペティションBIOMODが産声を上げた年でもある。私事ながら同年は、関西大学への異動(と人生初の関西転居)をした年でもある。研究室の初めて担当した学生達とチーム(Team-Kansai)を組んで以来、今のところ初年度から大会に皆勤していることになる。5年一区切りの節目を経て、サンフランシスコにところを変えた6年目のBIOMODに参加しての雑感を記したい。
会場入りしてすぐに見つけた、我々と同様にほぼ毎年参加しているポスドク時代の同僚と、Tシャツのデザインが一回りしたことなどをネタに雑談しながら周囲を見渡した第一印象は、アジア系の参加者が多いな、につきる。実際のところ、最後のボストン開催となった2015年の時点でも、参加30チーム中インドを含むアジアが17チームに達していたが、ここには日本チームが最大勢力として7チームも含まれており、さほど感慨はわかなかった(もちろん、日本以外のチームからは、「日本人だらけだ」と思われていただろう)。しかし今年の内訳は、24チーム中、日本5、中国(含香港)5、台湾2、韓国1、インド2と、とうとう日本は参加チーム数で中国に並ばれてしまったわけである。一方の欧米勢は、といえば、米国3、ドイツ2、カナダ1、メキシコ2、オーストラリア1であった。これらの数字を初年度のジャンボリー参加18チーム(内訳は多い順に米国6、欧州4(ドイツ2とデンマーク、スロベニア)、日本3、中国2、インドとシンガポールがあわせて3)と比較すると、この6年で参加チームの地理的分布がかなり移動したことがよくわかる。
ジャンボリーの雰囲気もかなり様変わりした。壇上では正装してすまし顔で「プレゼンテーション」が行われ、客席では神妙に「研究発表」を拝聴する、という印象が強かった初年度と比べると、発表者、聴衆ともに「ノリ」が確実に良くなった。学生コンテストはかくあるべし、大会立ち上げのどさくさに紛れてベストプレゼンテーション2位に潜り込んだ当チームの貢献もゼロではなかったな、などと思いつつ、かぶり物や寸劇が氾濫して、あまり学芸会的な雰囲気が強くなりすぎてしまうのも、欧米勢の割合減少と絡めて少々心配になってしまう。
いずれにせよ、非英語圏からの参加がこれほど受け入れられている国際大会は、非常に貴重である。本年から運営母体をNPO化したそうで、主催のShawn Douglasもまだまだやる気に満ちているようだ。当グループでは、大学院進学を希望する配属生全員が、チーム参加を経験している。現在のグループメンバーの強い結束が、BIOMOD参加に負うところは計り知れない。近年は成績もぱっとしないみそっかすチームではあるが、これからも暖かく迎え入れてくれる大会でありつづけてほしいものである。

ニュースレター19号完成いたしました。

11月30日付ニュースレター第19号を発行いたしました。
巻頭言は、東北大学 野村慎一郎准教授です。

keikaku野村先生

 
「Aは人工自動アメーバのA」
            
分子ロボットをやる理由、それをわかりやすい言葉で説明するのは難しい。SFの夢、未来の医療、最小のロボット、かつてない原理のロボット、ドレクスラーの予想、ファインマンの言葉。しかして本心は「人間の工作の限界を知りたい」なのだろう。ノーベル化学賞の分子機械はまさに工作の限界への挑戦であるし、学生の国際分子デザインコンペのBIOMODも好例だ。では、工作の魅力とは何だろう?どうやったら思いどおりに作れるのか、動くのか。原理から考えてデザインし、上手くいくととても楽しい。しかも分子ロボであれば、その舞台は人の手の届かない、支配的な物理法則が異なる微小スケールなのだ。当たり前が当たり前でない、ということは工作の楽しみに加えて、未知の新発見なんてボーナスまで期待できてしまう。やっちゃえ分子ロボ。
 というわけで、ぼくらは今、新学術分子ロボティクスのアメーバ班として5年目、最終年度を過ごしている。添削で赤く染まった分子アメーバ論文を横目に、少し苦労話も書いてみたい。アメーバ型、とはマイクロサイズの膜袋にロボットの分子要素を詰め込んだタイプである。 2012年に出たお題は「とにかく動かす」「制御系分子にDNAを使う」であった(裏に「外部からの制御は論外」というのもあった)。分子モータを膜袋に詰めればちゃっちゃと動くだろ、という予測はいきなりコケる。厚み5nmの油膜はあっさり割れ、収率低すぎでお話にならない。班員総出で収率を上げると、次はモータが剥がれる。剥がれない工夫をすると、今度は球形から動かない…。検討を重ねた末、 2016年初春、人工自動アメーバ(Artificial Autonomous Amoeba)はとにかく、動いた。膜分子1種の追加がカギだった。心細い稼働率だったが、改良を続け、冷凍分子ロボ・キットをクール宅急便で配布した。名古屋からは元気に動く個体の動画が届いた。もちろん、論文が発表されるまで、研究は為されなかったのと同じであり、それが科学の常識である。しかし分子アメーバはそんな人間の都合なんぞどこ吹く風で、対物レンズの上にてひょいひょい動いている。ぼくにはそれがどうも痛快なのだ。人の見ていないところで静かに笑っているのは、月やリンゴの天然物だけではないのだ。
 さて、いま分子ロボティクスがいるのはどのあたりだろう?技術の成熟度は、時間に対して右肩上がりになだらかで高い階段ひとつ、いわゆるS字曲線で描かれることが多い。ぼくらが居るのはおそらく段の直前、線形近似できるのぼり坂の終盤あたりと思っている。足された要素が個々の性質を失わずに扱える線上、分子アメーバはまさにそこで苦労してきた。3種の分子をあわせれば3種が、27種なら27種がそのまま動く。プレイヤーの研究者が3人寄れば3人分の業績が加算される。もちろん加算にも相応な苦労はあるが、見上げればはるか上空に変曲点が待っている。その分子ロボ技術が急発展するあたりでは、分子間相互作用の非線形性がガンガン利用されるだろうし、若手の会やBIOMODで増えたプレイヤー間の相互作用にも非線形性が増して、1つの事実が10以上のアイディアを産み片っ端から大当たり、ということもあるだろう。急激な変化は楽しみでも恐ろしくもあるがしかし、S字の上の台地(ひとりしか立てないピークでなく)はきっと見晴らしがよくて、みんなでケラケラ笑いながらSF作家が立てた次の未来のフラグを指さし狙い放題、そんな瞬間を共有できれば幸せにちがいない。
 とても楽しい、を原動力に、当たり前でないことを当たり前にして、成果を全プレイヤーに提供できる、それは悪くないプロジェクトだ。なのでもうちょっとがんばろう、みなさま引き続きよろしくお願いいたします。

ニュースレター18号発行いたしました

8月31日付けにて、ニュースレター18号を発行いたしました。
巻頭言は、九州大学山下雅史教授です。

NLNo.18yamashitasensei

私は、計算機科学、その中でも理論計算機科学に属していて、計算機ネットワーク上の分散システムを主要な研究対象とする分散計算を専門としていると認識されてきた(と私は思っている)。確かに、何を勉強して来たのかと問われると、分散システムの理論であり、どのような分散システムかと問われると、インターネットに代表される、計算機ネットワークがその主要な対象になっているのだが、振り返って見ると(来年3月で退職するので、そろそろ過去を振り返って回想に耽っても良いだろう)、計算(computing)という枠組みとは離れた場所で藻掻いてきた。例えば、2台の名前を持たないロボットを同じ場所に移動させる(分散型の)制御アルゴリズムを検討し、ロボットがメモリを持たないときにはこの問題が非可解であると証明したが、ここでの非可解性は、チューリング計算可能な制御アルゴリズムが存在しないという「弱い」意味での非可解性ではなく、アルゴリズムに対応するチューリング計算不可能な一般の関数ですら存在しないという「強い」意味での非可解性である。また、アルゴリズムの存在性にしても、チューリング計算可能な関数であることに余り拘泥して来なかった(ために、当然ながら、理論計算機科学関連の会議では分野外と判定されたことがあった)。
こういう無謀な試みをしてきた理由は、ほとんどの分散システムは自然由来で、このような自然由来の分散システムも人工の分散システムと「分散されている」という問題点を共有しているに違いなく、このような問題点とその解決方法は検討と理解に値すると考えており、この立場から分散システムを検討する際には、チューリング計算可能性という制約が本質的ではないように思われたからである。実際に、複数の物体がニュートン力学に従って移動するとき、それらが行く先を「計算」しているとは思えない。そこで、チューリング計算可能性とは独立に成立する分散システムの理論の構築を目指してきた。
本新学術領域研究には知能班の一員として参加させて頂き、いくつかの興味ある分散問題を発見し、問題解決の可能性とその限界を、上記の立場から(チューリング計算可能性に拘らずに)検討して来た。これらは与えられた分子ロボットモデルの下での検討であって、高い能力を持つ分子ロボットの製作には寄与していない。しかし、製作された分子ロボットによって実現可能なシステムを予見する、すなわち製作の目的を明確にするためには、このような研究が不可欠であるので、そのために努力しているとご理解を頂き、力の足りない点はご容赦頂きたい。

ニュースレター17号完成しました

分子ロボティクスニュースレター17号(約10MB)が完成いたしました。(小さいサイズのpdfはこちらからDLできます)
第7回領域会議報告、公募研究の特集です。

巻頭言は、文部科学省研究振興局学術調査官・名古屋大学の石川佳治 先生です。

NewsLetter No.17_石川先生

昨年度の8月に学術調査官を拝命し、「分子ロボティクス」を片桐清文調査官(広島大学)と担当しております。任期2年ですので、本領域の研究期間の最後までお付き合いすることになります。私は情報学分野ではただ一人の調査官ということもあり、情報学に関連するいろいろな領域に顔を出し、勉強させていただいております。学術調査官がどういうものであるか、また、学術調査官としてのアドバイス等については、過去のNews Letter において他の調査官の方々からの説明がなされておりますので、今回は情報学の分野の研究者としての立場から、本領域へのメッセージを述べさせていただきます。

領域代表の萩谷先生と直接お話しする機会を得たのは、学術調査官として本領域を担当してからでしたが、よくよく考えますと、大学で情報工学を学びはじめた頃に萩谷先生の「ソフトウェア考現学」[1] を手にして何度も読み返した思い出があり、その後もCommon Lisp や数理論理学の教科書などでもお世話になりました。なお、ちょうどいま名古屋大学では、情報分野の学部・大学院の組織改革を進めているところですが、学部の教育がどうあるべきかについては、萩谷先生がまとめられた「情報学の参照基準」[2] を大いに参考にさせていただきました。
このようなこともあり、萩谷先生がどのようなトピックに興味を持たれているかには継続して関心がありましたが、2001 年に出た「DNA コンピュータ」[3] には、このような研究分野があるのかと強く感銘を受けました。その後、学術調査官として「分子ロボティクス」を担当することとなり、萩谷先生、小長谷先生、村田先生から本領域の研究内容について紹介いただく機会がありましたが、本領域ではロボティクスという切り口でまったく新たな話が展開されており、研究内容だけでなくその先見性についても驚かされました。

「分子ロボティクス」は、複数の研究領域にまたがる未開拓な分野を、代表者を中心に大きなビジョンと熱意をもって切り開いておられるという点で、まさに新学術領域の趣旨に合致した領域であると感じております。研究期間は今年度までとなりますが、今後ますます本研究分野が発展し、重要な学術領域の一つとして定着するものと大いに期待しております。


[1] 萩谷昌己, ソフトウェア考現学―基礎概念への最新おもしろガイド, CQ 出版社, 1985 年
[2] 萩谷昌己, 情報学を定義する―情報学分野の参照基準, 情報処理, 55(7), pp. 734-743, 2014 年
[3] 萩谷昌己, 横森貴, DNA コンピュータ, 培風館, 2001 年

ニュースレター16号

ニュースレター第16号を発行いたしました。
巻頭言は、広島大学 片桐清文先生です。

katagirisensei(Hirodai)

今年度の8月より本領域を学術調査官として担当しております。学術調査官の業務内容等につきましては、前々任の重田調査官、前任の根岸調査官がそれぞれNews Letter(No.3、No.8)で紹介されていますので、そちらをご参照いただければ、と思います。小職は学術調査官には昨年度着任し、本領域の中間評価ヒアリングにも陪席いたしました。本領域は非常に野心的な目標を設定されており、当初の予想通りにはいかない部分もあるかと思いますが、達成されれば非常に大きなインパクトがあると思いますので、研究の発展を楽しみにしております。さて、今年度より各領域の担当調査官の運用の変更を行いましたので紹介させていただきます。従来は各領域1名の調査官が担当しておりましたが、これを着任年度の異なる2名で担当するようにいたしました。本領域では研究内容等も勘案し、化学が専門である小職と情報学が専門である石川佳治調査官(名古屋大学)で現在担当しております。これらの変更でよりきめ細やかなサポートを目指しておりますので、ぜひご活用いただければ、と思います。

次に、現在の科学研究費助成事業を取り巻く状況についてご紹介いたします。12月24日に平成28年度政府予算案が閣議決定されましたが、科研費の予算案は2,273億円となり、厳しい財政状況の中、前年度と同水準の予定額を確保できました。この予算案においては、科学技術・学術審議会学術分科会研究費部会において議論された科研費改革の実施方針等も踏まえ、「新たな学問領域の創成に向けた探索」や「学際的研究、異分野連携による研究者の大胆なテーマ転換」が「期待される挑戦」としてあげられています。これらはまさに新学術領域研究において目指すべきところであり、本領域が目指している方向とも合致しているかと思います。また、今年度からは「国際共同研究の加速」が科研費における大きな課題として取り上げられています。採択年度の関係で本領域は対象となりませんでしたが、新学術領域研究には「国際活動支援班」の設置が新たに始まりました。新学術領域研究の審査や評価の着目点には「国際的なネットワークの構築」が従前より含まれておりますので、本領域におかれましても事後評価にむけて、さらに国際的活動の充実を意識して研究を推進していただければ、と思います。

本領域の研究期間もあと1年余りとなりましたが、素晴らしい成果が得られることを心より祈念しております。

ニュースレターNo.15(BIOMOD本大会特集)発行いたしました

ニュースレター15号、BIOMOD2015特集号を発行いたしました。
巻頭言は、九州工業大学の中茎 隆先生です。
Nakakukisensei

BIOMOD2015は、例年通りハーバード大学を会場として、世界中から30チームが参加しての開催となった。昨年に比べ、アメリカ、ヨーロッパからのチームが減り、東アジアからのチームが全体に占める割合が増えた。特に、日本からは最多の7チームが参加したため、大会において日本チームの存在感は高かったと感じた。
振り返ると、今回の2015年大会は、最初から最後まで異例づくしの展開が続いた。4月のチームレジストレーションでは、参加チーム数を制限し、先着順とする旨がHP上で告知され、9月には学生メンバー全員のレジストレーション、ホテルの支払いが求められ・・・と例年との違いに困惑したチームや資金集めに奔走したメンターも少なからずいたのではと想像する(もちろん、筆者は奔走したメンターの一人である)。また、審査においては、例年に比べて厳しいジャッジが行われたようで、Project Award Gold(金賞)が大幅に減り、Bronze(銅賞)が大幅に増え、(例年と比べると)変則的な結果となった。
このように異例づくしの大会において、Team Sendai(東北大学)の強さは変わらなかった。大会のレベルは年々高まっており、今年は上述のように参加するための費用負担が求められたこともあり、本気で勝ちを狙った30チームによるハイレベルな大会であった。その中で、2012年大会に続き総合優勝という大金星を挙げたTeam Sendai、金賞を受賞したTeam Hokudai(北海道大学)は、世界に対して、分子デザイン領域における日本のプレゼンスを印象づけたに違いない。
日本チームの学生にとって、海外で英語でプレゼンをすることは挑戦的な課題であり、初めての経験であったという学生も多かったのではないかと想像する。また、通常の国際会議での発表と異なり、300名程の聴衆の前でエンターテイメント性にも富んだプレゼンを披露するには勇気と度胸が必要である。筆者がメンターを務めるYOKABIO(九州工業大学)の学生を見ていると、BIOMODが始まる4月頃と大会後にハーバードから帰ってきた後とでは、一回り大人に成長しているように感じている。このような感覚は、他チームのメンターも感じていることと思う。大会を通じて、若者が逞しく成長することこそ最も貴重な結果であると考えている。
最後に、BIOMOD本大会、日本大会にご協力、ご支援くださいました関係者の皆様にこの場を借りて、心より御礼申し上げます。

News Letter No.14発行いたしました

11月30日付けで、「分子ロボティクス」ニュースレター14号を発行いたしました。
巻頭言は、東京大学生産技術研究所の藤井輝夫先生です。
NewsLetter No14_Fujii

「ロボット工学の夢と分子ロボティクス」
 “部品一つ一つをくみ上げて、生き物のように振る舞う機械を作る”、ロボット工学の一つの夢である。何を隠そう私自身も海中ロボットの研究で博士を取得しており、15年ほど前まではロボットの研究を行っていた。その後、微視的な世界に興味を持ち、マイクロフルイディクスの研究を手がけて現在に至っている。この間、本領域の萩谷先生や村田先生とは研究でご一緒する機会もあり、ロボット工学の進展を横目で見ながら分子計算やDNAナノ構造等を使って何が出来るか、漠然とした問いを持ち続けながら過ごしてきた。
 さて、そんな中できいた新たなキーワードが「分子ロボティクス」である。分子をBuilding Blockにしてロボットを作る。当然、入力は分子であり、出力は分子であってもよいし、力学的な動作でもよい。分子を出力とする方が、おそらく広範囲に影響を及ぼせる。できることならば、役に立つ出力であって欲しい。などなどが、「分子ロボティクス」という言葉をきいてぱっと浮かぶイメージである。直感的に、これは面白い、と感じただけでなく、ロボット工学が進むべき一つの方向性であると理解するには時間はかからなかった。
 機械システムとしてのロボットは、主要な構造部材(機構)に加えて、センサデバイスやアクチュエータとしてのモータ、制御用のプロセッサなどを構成要素として組み立てられる。従って、通常ロボットの基本的な構造や形態は、それらの構成要素によって決まってくる。構成要素は、部品というより、どちらかといえば機能モジュールであり、中身まで分解して詳細に設計することはまれである。すなわち、ロボットをつくる上での設計の自由度は、機能モジュールのスペックや形態・構造に大きく左右されることになる。これが、いわゆる従来型のロボット作りにおいて、“なんとなく気に入らない”ところであった。つまり、特定のモジュールの制約から逃れて“自由にロボット作りができるBuilding Blockが欲しい”というのが暗黙の欲求であったように思う。
 さて、分子ロボティクスのコンセプトを私が正しく理解しているとすれば、まさにそれは”分子“をそのような究極のBuilding Blockととらえてロボットを作ろう、とするものであろう。分子を部品に使うと、それを制約するものはソフトウェアや配線、ネジ穴の配置、などではなく、物理法則そのもの、ということになる。したがって、我々は物理法則の支配を直接受けつつ、これを利用しうるような部品あるいは機能モジュールを考える必要がある。それこそが、分子ロボティクスの方法論につながるものだと言うこともできる。一方で、このようなロボットが実現できれば、物理世界すなわち実世界に適応した振る舞いが期待でき、これはまさに冒頭に述べたロボット工学の夢の一つの実現、ということになり得る。
 評価者として、勝手なことを書き連ねて来たが、本領域に望むことは、一例でも構わない、分子でできた機能モジュールのインテグレーションを是非とも実現していただき、「分子ロボティクス」の、できることならば普遍的な方法論の先駆けを創出していただくということである。ここで私が言うまでもなく、すでにその一部は完成しているものと思うし、また多様や専門分野から大変優秀な研究者の皆さんが本領域に参画しておられることを踏まえれば、決して不可能なことではないと確信している。

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